ストーリーを知っている、知らないでこうも違うものなのか
最近、この動画をずっと何回も何回も見ている。
ちなみにここ最近のBiSのライブ動画は会場にもよるけど動画撮影がなんとなく公認という感じになっててこれ以外にも100以上のライブ動画が公開されている。
この曲は元々は、さよらなポニーテールというバンドのオリジナル曲でそれをBiSがカヴァーしているので彼女達が作詞した訳ではないが、歌詞の内容が解散間近の彼女達にどこかリンクしていてどーにもこーにも聞いてるとやばい感じになる。
BiS版のバスドラ打ちすぎベースうねりすぎなアレンジに比べてオリジナルは歌詞に忠実というかボーカルも含めてとてもシンプルでオーソドックスな演奏で、何の先入観もなしに両方を聞いたら断然、こっちの方が歌詞のイメージも伝わるんじゃないかと思う(私はBiS版のほうが断然好きだけど)。
ただこの曲、メロディはすっごく好きなんだけど十代の頃の甘酸っぱい別れ的な歌詞だけを見るともう何十年も前から何十、何百と歌われている古臭いシチュエーションで、正直、ちょっとキツイなーと感じる。
もちろん、だからこそ多くの人が共感できるという側面もあるのだろうが、私からしたら毒にも薬にもならない面白みに欠けた歌詞にしか思えない。
そもそも私がBiSに夢中になった理由の一つにアイドルだけど恋愛の歌詞が少なく(あってもストーカー的なものとか狂気を感じるものとか)絶望を歌っている歌詞が多かったというのがある。
じゃあなんでその自分が嫌いなタイプの歌詞の曲を延々とリピートしているのか?
それこそが今回のタイトルである「ストーリーを知っている、知らないでこうも違うものなのか」なのである。
まず前提としてCD音源のBiSの「あの頃」を歌っているのは最初の動画の中には2人しかいない。この曲がリリースされたのは2013年の3月6日でその時点のBiSは今とは全く違うメンバー構成である。
何かとってもややこしいがこれがカヴァーのオリジナル。ダンスもなく5人が直立のままで歌っている。
私はこの頃のことはリアルタイムでは知らないので色々な所で見聞きした範囲での情報だけど5人でこの曲を歌ったのはこの時1回のみらしい。
この動画はさよならポニーテールのアルバムが発売された当日3月6日に行われた発売イベントのもので、BiSにとってはこの動画の一番右端にいる、わっきーの脱退ライブ10日前。この時期は連日のライブやイベント。それに前年から続くリーダーのプールイとゆっふぃーの不仲騒動などでメンバー全員が心身ともにボロボロだったらしい(後で発売されたわっきー脱退の国技館ライブのDVDのおまけについてるドキュメント見ると本当にひどい状況になってた)。
それ以来、メンバーが変わってもこの曲が歌われることはなかったが、今回のラストツアーのいくつかの会場で久々に取り上げられている。
過去に在籍していたメンバーがそういった状況の時にたった1回だけ歌っていたものを1年以上振りにしかも解散を7月に控えたラストツアーでセットリストに取り入れた。もうこれだけでちょっとウルっと来てしまう。
しかしそれだけではない。一番最初の今回のツアーでの動画(厳密に言うとこの動画はツアーではなくファン感謝イベントだけど)と過去のメンバーバージョンの動画を聞き比べるとあることに気が付くと思う。それは今回のツアーの音源がボーカル抜き音源ではなく過去のメンバーのボーカルが入っている音源だということ。
BiSはデビュー当初はボーカル入り音源でマイクをオフにするといういわゆる口パクからスタートしている。そしてしばらくしてボーカル入り音源でマイクをオンにする「被せ」に移行。そして今ではほとんどの楽曲でボーカルなし音源、マイクオンの生歌になっている(初期の曲はまだ被せが多いけど)。
でもこの曲に関しては生歌ではなく被せなのである。どういった事情なのかは分からないが今回のツアーでこの歌はCD音源も含め9人で歌っている。
さらに過去のメンバーが直立で歌っていたのに対し、今回のツアーでは振り付きで歌っている。
抱きしめようとするがすり抜けていってしまうといった感じの振付が何度も出てくる。単純ではあるが前述したものを全て踏まえた上でこの振付を見るともう本当にたまらない気持ちになる。
解散寸前というそれでなくともセンチメンタルな状況で5人時代のBiSが終わる寸前に一度だけ歌われた歌をその当時のメンバーのボーカル入りでしかも切なさを体現したような振付で歌う。目ん玉から涙かっぽじる気満々である。
ここまで条件が揃ったらもう歌詞が気に入らないからなんてことはどーでも良い(メロディやアレンジが良く商品として良質であるってこと前提で)。というか歌詞がこれだけシンプルで入り込みやすいからこそいいのかもとまで思ってしまう。
もちろん、それはファン目線の妄想もふんだんに盛り込まれていることは承知の上。最後のライブだからしばらくやってなかった曲もやっていこう。ボーカル抜きの音源たまたまなかったからCD音源そのまま使っちゃえぐらいな感じかもしれないしね。
でもそんな裏の事情なんてどうでも良くて自分の都合のいいように解釈してストーリー妄想するのが楽しみの一つでもある。
逆に言えばそういった妄想を膨らませる余地を残すってのがストーリーを作り上げていく上で実は重要な要素なのかも。歌でも人でも商品でもお店でもなんでもね。
提供する側が常に100%完璧なものを出してきちゃうと応援しようって気にならない。ちゃんとファンの妄想の余地を残して最後は一緒に作っていこうってのが熱狂的なファンを作るためには必要なのかなと。
おまけ。
わっきーが脱退したわずか2か月後に脱退したゆっふぃーが5人で「あの頃」を歌ったのと同じ場所でしかもほぼ1年後の今年3月5日にソロとして「あの頃」を歌う動画。
事情があってなんだろうけどBiS版ではなくオリジナルのアレンジで歌っているってのもまた色々な妄想が掻き立てられもにょもにょするよね。
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