ChatGPTやGemini、Copilotなどの生成AIが注目されるなか、「士業にも活用できるのだろうか?」と疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。顧客対応や書類作成、リサーチなどの業務の中で、生成AIは確かに力を発揮します。しかし一方で、「情報漏洩が心配」「実際どう使えばいいかわからない」と感じる方も少なくありません。
本記事では、ChatGPTをはじめとした生成AIを、士業の業務に安全かつ効果的に取り入れるためのポイントを解説します。基本的な知識から具体的な活用例、注意すべきリスクと対策まで、明日から使える情報を網羅していますので、ぜひご活用ください。

生成AIとは?士業が知るべき基本と主要ツール
生成AIは、大量のデータから学習し、人間のように文章や画像などを「生成」する人工知能技術です。士業の先生方が日々行っている、文書作成、情報収集、思考整理といった業務の強力なサポートツールとして期待されています。
ChatGPTやGeminiなど、代表的な生成AIの特徴と比較
現在、主要な生成AIツールはいくつか存在し、それぞれ異なる特徴を持っています。
ChatGPT(OpenAI)
自然な対話能力に優れており、文章生成、要約、翻訳、アイデア出しなど幅広い用途で活用できます。特に汎用性が高く、多くのユーザーに利用されています。
Gemini(Google)
・Googleが開発した最新のAIモデルで、テキストだけでなく画像、音声、動画など多様な情報を理解・生成できる「マルチモーダル」な点が特徴です。情報の正確性や最新性において強みを発揮します
・Geminiでは、NotebookLMという研究・情報整理に特化したツールも提供されています。これは、WebサイトのURL、PDFファイル、Googleドキュメントなどを情報源として登録し、その内容に基づいてAIが要約や質問応答、アイデア生成を行うことが可能です。例えば、登録した論文や資料からポイントを抽出して、それを基に音声コンテンツ(ポッドキャストの台本など)を作成する機能もあり、士業の先生方にとっての情報収集や学習、アウトプットの効率化に大変役立つでしょう
Copilot(Microsoft)
・Microsoft製品(Word、Excel、PowerPoint、Outlookなど)との連携が最大の強みです。普段使い慣れたOfficeアプリ内でAIのサポートを受けられ、資料作成やメール作成の効率を大幅に向上させることが期待されています
・Microsoft Copilot for Microsoft 365(有料版)は、企業のMicrosoft 365環境と連携し、組織内のデータ(Outlookのメール、Teamsのチャット、SharePointのファイルなど)を安全に利用できる点が特徴です。強固なセキュリティとコンプライアンスが確保されています
無料版と有料版の違い、法人向けプランのメリット
多くの生成AIには無料版と有料版があり、法人利用を考える上でその違いを理解しておくことが重要です。
項目 | 無料版 | 有料版(個人向け) | 法人向けプラン |
利用頻度 | 利用制限がある場合が多い | 高い頻度で利用可能 | 高い頻度で利用可能 |
機能 | 基本機能のみ | 最新モデル、高度な機能が利用可能 | 高度な機能に加え、チーム管理、カスタム機能など |
処理速度 | 遅延することがある | 高速で安定した応答が可能 | 高速で安定した応答が可能 |
データ保護 | 入力データがAIの学習に利用される可能性も(※1) | 入力データがAIの学習に利用されない設定が可能(※2) | 入力データはAIの学習に利用されないことが保証されるケースが多い |
サポート | 限定的 | 有料プランユーザー向けのサポート | 法人向け専用サポート、SLA(サービス品質保証)の設定も |
連携 | 基本的に単体利用 | 一部外部サービスとの連携機能 | 社内システムやMicrosoft 365などとのシームレスな連携(Copilotなど) |
(※1)各サービスのプライバシーポリシーを必ず確認してください。
(※2)設定変更が必要です。
現在、主な生成AIでは、ChatGPT Plus、Claude Pro、Perplexity Pro、Gemini AI Pro、Copilot Proなどは月額3,000円程度で利用可能です。法人向けや本格ビジネス利用となるとChatGPT Pro ($200:約30,000円)、Gemini AI Ultra (36,400円※最初の3か月は18,000円)などが用意されています(最新の価格は必ず各生成AIサービスの公式サイトで確認してください)。
士業の先生方にとって、法人向けプランは特に重要です。入力データがAIの学習に利用されないことが保証されている場合が多く、守秘義務や情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。また、チームでの管理機能やセキュリティ機能が強化されている点、そしてMicrosoft Copilot for Microsoft 365のように既存の業務ツールと深く連携できる点は大きなメリットとなります。
士業の業務効率を上げる生成AI活用例5選
ここからは、生成AIを士業の業務に具体的にどう活かせるか、5つの活用例をご紹介します。
メールや通知文の下書き・推敲
顧客への連絡メールや関係機関への通知文など、定型的な文章作成は生成AIの得意分野です。
下書き作成
「〇〇の件で、お客様へ状況説明のメールを作成してください」と指示すれば、適切なトーンと構成で下書きを生成してくれます
推敲・表現改善
自分で書いた文章をAIに入力し、「より丁寧な表現に修正して」「要点を簡潔にまとめて」と依頼すれば、客観的な視点から改善案を提示してくれます
契約書・規約の体裁チェックと要約、難解な文書の平易化
生成AIは、文書の形式的なチェックや内容の整理にも役立ちます。
体裁チェック
作成した契約書や規約について、「誤字脱字がないか確認して」「条項番号が連番になっているか確認して」といった指示で、形式的なミスを見つけやすくなります
要約
長文の契約書や報告書をAIに入力し、「この文書の重要点を500字以内で要約してください」と依頼すれば、短時間で概要を把握できます
平易化
専門用語が多く難解な文書を、「この文書を一般の人にも分かりやすく説明してください」と指示することで、顧客向けの説明資料作成などに活用できます
法令・条文・制度の概要確認と情報整理
法改正や新制度の概要を素早く把握したいときにも生成AIは役立ちます。
概要把握
「〇〇法改正のポイントを教えて」「新しい補助金制度の概要を簡潔に説明して」と尋ねることで、一次情報を確認する前の情報収集の足がかりとできます
情報整理
複数の情報を入力し、「これらの情報から、関連する法令をリストアップして」といった形で、情報整理の補助として利用できます
注意点!
生成AIが提示する情報は、必ずしも最新であったり正確であったりするとは限りません。特に法律や制度に関する情報は、必ず官公庁のウェブサイトや専門家の解説など、信頼できる一次情報で最終確認を行うようにしてください
ブログやSNS、セミナー資料の草案作成
情報発信は士業のブランディングにおいて重要です。生成AIは、そのためのコンテンツ作成をサポートします。
ブログ記事のアイデア出し
「〇〇に関するブログ記事のテーマをいくつか提案して」と指示すれば、新しい視点やキーワードを提示してくれるでしょう
SNS投稿の下書き
「今日のセミナー内容をSNSで告知する文章を考えて」と依頼すれば、適切なハッシュタグを含めて投稿文案を作成してくれます
セミナー資料の構成案
セミナーのテーマやターゲット層を伝え、「資料の目次構成を提案して」と依頼すれば、論理的な構成を考える手助けになります
アイデア出し・思考整理・壁打ち相手としての活用
一人で考えがまとまらないときや、新しい視点が欲しいときに、生成AIは優秀な壁打ち相手となります。
ブレインストーミング
新規サービスや業務改善について、「〇〇に関するアイデアをできるだけ多く出してください」と依頼すれば、思いもよらない視点を提供してくれることがあります
論点整理
複雑な案件について、現状や課題を入力し、「この問題の主な論点を洗い出して」と指示することで、思考の整理に役立ちます
生成AI利用で注意すべき情報漏洩リスクと安全対策
生成AIの活用は非常に便利ですが、士業として最も懸念されるのが情報漏洩のリスクです。適切な対策を講じなければ、顧客の機密情報や個人情報が意図せず外部に流出する可能性があります。
生成AIに入力してはいけない情報とは?
原則として、以下の情報は生成AIに絶対に入力してはいけません。
顧客の個人情報: 氏名、住所、電話番号、メールアドレス、マイナンバー、口座情報など
機密情報: 契約内容、経営情報、M&Aに関する情報、未公開の知的財産など
守秘義務の対象となる情報: 業務上知り得た全ての秘密情報
これらの情報がAIの学習データとして利用されたり、外部に公開されたりするリスクがあるため、細心の注意が必要です。
プライバシー設定と学習データ管理の重要性
多くの生成AIサービスには、入力したデータがAIの学習に利用されることを防ぐためのプライバシー設定があります。
ChatGPTの場合: 設定画面で「Chat history & training」をオフにすることで、チャット履歴が学習に利用されなくなります
法人向けプランの利用: 多くの法人向けプランでは、入力データがAIの学習に利用されないことが規約で明記されています
必ず利用するサービスのプライバシーポリシーや利用規約を熟読し、適切な設定を行うようにしてください。
情報セキュリティを強化する法人向けAIツールの活用
個人向けの無料版や有料版では、どうしてもセキュリティ面での不安が残ります。士業が生成AIを業務に導入する際は、法人向け(エンタープライズ版)のAIツールの活用を強く検討すべきです。
法人向けツールは、以下のようなセキュリティ機能や管理機能が強化されています。
入力データの非学習保証
サービスプロバイダー側で入力データがAIの学習に利用されないことが契約で保証されています
専用環境の提供
他のユーザーとデータが混ざらない専用の環境が提供されることがあります
監査ログ
誰が、いつ、どのような情報をAIに入力したかなどを記録し、管理できる機能です
アクセス管理
チーム内のメンバーごとにAIツールの利用権限を細かく設定できます
これらの機能により、情報漏洩のリスクを大幅に低減し、より安全に生成AIを業務に組み込むことが可能となります。
生成AIを最大限に活かす3つの利用術
生成AIはただ質問するだけではその真価を発揮しません。効果的に活用するための3つのコツを押さえておきましょう。
具体的に指示する(プロンプト設計)
生成AIへの指示文は「プロンプト」と呼ばれます。AIから質の高い回答を引き出すためには、プロンプトを具体的に設計することが重要です。
目的を明確に
「〇〇について教えて」だけでなく、「〇〇について、誰に、何を、どう伝えたいのか」まで具体的に指示します
役割を与える
「あなたはベテランの弁護士です」「あなたは顧客対応の専門家です」のようにAIに役割を与えることで、回答の質が向上することがあります
条件を付加する
「~の形式で」「~の文字数で」「~のような口調で」など、出力に条件を加えます
AIの出力は「叩き台」として活用し、必ず最終確認を行う
生成AIは非常に高性能ですが、間違い(ハルシネーション)や不適切な内容を出力する可能性もゼロではありません。特に専門性の高い士業の業務においては、AIの出力結果をそのまま使用することは絶対に避けてください。
AIの出力はあくまで「叩き台」や「参考情報」として活用し、内容の正確性、法的妥当性、倫理的な適切性などを必ずご自身の責任で最終確認してください。最終的な判断や責任は、常に人間である士業に帰属することを忘れないでください。
使いどころを「分ける」ことの重要性
すべての業務に生成AIを導入するのではなく、AIが得意な部分と人間が行うべき部分を明確に分け、適材適所で活用することが成功の鍵です。
例えば、
アイデア出しや文章の骨子作成: 生成AIに任せる
最終的な内容の精査、法的判断、顧客への説明: 士業自身が行う
このように役割を分担することで、生成AIの恩恵を最大限に受けつつ、士業としての専門性と責任を確保できます。
生成AIは士業の「強力な補助者」となる
生成AIは、士業の業務効率を劇的に向上させる可能性を秘めた強力なツールです。メール作成や情報整理、アイデア出しなど、日々のルーティンワークをAIに任せることで、先生方はより専門的な業務や顧客との関係構築に時間を割くことができます。
しかし、その導入にあたっては、情報漏洩のリスクを正しく理解し、適切なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。特に、機密情報や個人情報の取り扱いには細心の注意を払い、可能であれば法人向けのセキュリティが強化されたプランの利用を検討してください。
生成AIは決して士業の業務を代替するものではなく、先生方の「強力な補助者」として、業務の質と効率を高めるための相棒となり得る存在です。リスクを理解し、賢く活用することで、未来の士業の働き方を大きく変えることができるでしょう。